「草むしりしといてやるよ」と、屋敷跡で管理されていない他人の土地を勝手に開墾し畑を始めたのが十年前。大根なんてとても育てられる土ではない。手作業で深さ一メートルの溝を縦横無尽に掘り進め、埋まっている瓦礫を取り除き、天地返しを施し堆肥をすり込んだ。早朝の日課だった。
作業をのぞきに来る人は口を揃えて「俺が野菜作りを教えてやるよ」と弟子のスカウトにやって来る。「勝手にやらせてくれよ」と言いながら師匠達に教えてもらい、種や苗を分け合ったり、収穫自慢をしたり、楽しい時間を過ごした。「いい野菜を作るようになったな」と言われるようになった。
いつかここに家が建つ事は承知していた。地主が申し訳なさそうに報告に来た。「お前が頭を下げる事はないだろ。今まで楽しませてもらったし感謝しているよ。ありがとう」と礼を言った。「こっちでやれ」とあちこちから誘いがかかったが、「十分楽しんだからいいんだよ」と畑じまいをした。
高い野菜を作らず、安い野菜を買えるようになった(笑)