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町田

Vol.11  298号【今しか見られない】

俺たちが生きてる間には見らんねぇな」

かつて八ッ場ダムの話題に使用された枕詞は、最近ではすっかり聞こえなくなった。

「今しか見られない。日本一のインフラ観光ツアー」と銘打って、ダムの本体建設現場の見学会が連日開かれている。国交省のバスも頻繁に往来し、ヘルメット姿の見学客が押し寄せている。愛称「いだてん」と呼ばれる高速施工技術で夜昼通して作業している過程が見学できる。

人は皆「限定」「特別」「今だけ」という誘い文句に弱いらしい。近所の年配者たちも、「今しか見られねんだと」と言って老人会で見学ツアーを実施した。よほど感動したのだろう。見てきた人たちは、様々に現場の広大さ、近代工事の迅速さ、昔の風景との違いを、ツアーガイドの受け売りを交えて楽しそうに話してくれる。

 かつて「見られない」と言っていた人たちが、「今だけだぞ」と心を躍らせ次世代に語っている。賛否を争ったわだかまりも、だんだんと薄れていって欲しいと願う。



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